ライディングガイド
キレイなフォームのポイント
キレイなフォームをつくる、簡単な3つのポイントをご紹介。疲労軽減やボディラインの引き締めなど、嬉しい効果が期待できます。
富士スバルラインの五合目まで全長24km標高差1255mを上る「Mt.富士ヒルクライム」(以下、富士ヒル)は、日本最大級のヒルクライムレースです。世界遺産でもある富士山を舞台に初夏に行われる大会は、完走率も高いため、上級者だけでなく初心者にも人気のイベントです。
Livは、2022年大会前日のサイクルエキスポにて、望月美和子さんによる「富士ヒルクライム直前レッスン」を開催いたしました。
レッスンでは、前年の富士ヒル選抜クラスのチャンピオンでもある望月さんが、上りを楽に走るコツや富士ヒルの攻略ポイントなどを、座学だけではなく固定トレーナーにバイクを取り付けて、ペダリングやフォームを確認しながら参加者にアドバイスを行いました。
このガイドでは、望月さんの富士ヒルレッスン内容をまとめてご紹介いたします。ぜひ、ヒルクライムの攻略にお役立てください。
距離が長いヒルクライムレースでは、マラソンと同じようにペース配分がとても大切です。最初から勢いよくとばす方はいないと思いますが、最後まで力を出し切れるようにペース配分に気をつけながら走りましょう。
ペース配分を上手に行うコツは、サイクルコンピューターに表示される心拍数やパワー、ケイデンスなどの数値を目安にすることです。前半は飛ばしすぎないように、心拍数なら最大値80%、パワーならFTPの80%くらいを上限に走りはじめると良いでしょう。
富士ヒルの前半は、料金所手前から5Km地点くらいまでは特に勾配がキツイので、調子が悪いと心配になることがありますが、無理をして序盤に体力を消耗してしまわないように、落ち着いて自分のペースを守るようにしましょう。
富士ヒルは、実は勾配が緩いところが多く、単独で走るよりも集団で走った方がタイムを出しやすい大会です。一合目を過ぎたくらいからは、自分のペースに合う集団を見つけて一緒に走行できると良いでしょう。
ただ、注意してほしいのが自分のペースに合わない集団はNGです。富士ヒルは出走人数が多いので、集団が大きくなり、スピードがどんどん上がっていくことがあります。オーバーペースかどうかは、サイクルコンピューターの数値や息があがりすぎてないかで判断しましょう。会話ができるくらいのペースだと安心です。
自分のペースに合わない場合は一度その集団からは離れて、息を整えてから別の集団に参加しても問題ないです。富士ヒルは勾配が緩くて出走人数が多いから、その時々でペースの合う集団を見つけて走ることを繰り返すと、空気抵抗を減らして良いタイムが出やすくなります。
ですが、集団で走ることに慣れていないと初めは怖いと思います。レース本番でいきなり集団走行するのは危ないので、事前に必ず人の後ろや集団で走る練習をしておいてください。集団で走るもうひとつのメリットは、キツイところでも同じように頑張っている仲間がいると一人で走るよりも頑張れることです。ぜひ、上手に集団走行できるようになって、富士ヒルでベストタイムを出せるように頑張ってください!
ペースの次はフォームについてです。坂が苦手な人は腰が引けていることが多い傾向です。腰が引けてしまうとペダルに体重を乗せられなくなってしまうので、なるべく腰は斜度に合わせて前傾するよう意識した方が良いです。
腰が引けているダメな例をお見せしますね。
腰が引けている人は骨盤が後ろに下がってしまっています。この状態だと体も後ろに下がってしまって、脚のチカラだけで漕ぐ形になってしまうので、上り坂は斜度に合わせて少し前乗りを意識してみてください。前乗りになっていても腰が引けているとパワーは出せないので、おへそを前に持ってくるのがポイントです。そして、腰を反らずに丸めるようにして、骨盤から前に出すようにペダリングをした方が進みやすくなります。
平らな場所で行うトレーナーの練習で、腰が前に行き過ぎているような感覚がある場合は、前輪の下に高さのあるものを置くと坂の斜度を再現できます。
頑張りすぎてしまうと、上半身に力が入って肩が上がってくることが多いです。その状態では腹筋に力が入らなくなってしまうので、なるべく肩をリラックスさせるようにしてください。
肩をリラックスさせると自然と胸が広がるので、呼吸もしやすくなります。肩が下がって、首が長くなるようにイメージしてください。
ブラケットを持った状態でやりにくい場合は、ハンドル上部のフラットな部分を持ってみてください。その際、風の抵抗を受けにくくするために、肘を軽く曲げるのがおすすめです。また、肘が伸びきってしまっていると上体が反ってしまって体重を乗せられなくなるので、リラックスして自然に曲げておくのが良いでしょう。
タイミングとしては、傾斜がきつくなってケイデンスが落ちてきたと思ったときに、ダンシングを取り入れるといいと思います。私の場合は、ケイデンスが60くらいになったときが目安です。練習でケイデンスがどれくらいになった時にダンシングに移行するとスムーズか試して、自分の目安を見つけてみてください。あと、疲れてきて回すのが辛くなるタイミングでダンシングを取り入れると、別の筋肉を使うことができるので良いと思います。もちろん、シッティングでは上りきれないようなキツイ勾配のときもダンシングを活用します。急な坂はダンシングで一気に上りきってしまう方がいいと思います。
ダンシングからシッティングに戻すタイミングが分からない場合は、「あの看板まで」や「ケイデンスが高くなってきたら」のように目安を決めるといいです。
ダンシングには、ゴールスプリントのような全力で踏み切るダンシングと、淡々とペースを刻むダンシングの2種類あります。一定のペースで効率良く走ることが秘訣のヒルクライムレースでは、疲れを溜めないダンシングができると良いでしょう。そのためには、体重を上手に使うことがポイントです。
右脚を下すと反対の左脚は自然に上がってきますので、脚の筋肉に頼り過ぎずに下す側の脚にお尻から体重を乗せて自然に下してみましょう。その時、肩や頭を左右に振ってリズムをとります。車と同じように、ヒルクライムでも燃費よく走るためには一定のスピードを保った方が効率良く走れるので、なるべく一定のペースを保つためにダンシングをうまく取り入れてみてください。
ダンシングするときのギア比は状況によって変わりますが、重くしすぎずに無理のないダンシングをしてください。軽すぎると感じたときに一段重くするくらいが良いでしょう。また、前の選手に追いつきたいときや、勝負をかけるときにはギアを重くします。
(レッスンイベントの事前アンケートで伺ったお悩みで多かった、腰の痛みについて)
実は私も、皆さんと同じように腰の痛みで悩んでいました。昨年・一昨年は、30Km走るだけで痛くなり、60Km以上走ったら次の日起き上がれない位ひどい状態でした。柔軟性が落ちてしまっていたことと身体の使い方が悪かったことが原因でした。
一昨年落車して鎖骨を折った際に、左右のバランスが崩れてしまったことで上半身の使い方が変わってしまい、脚だけで踏むようなペダリングになっていました。その負担が常に腰にもかかっていました。
今は、常に腹筋と腹斜筋を意識して腰回りが動くようなペダリングを心がけることで、腰の痛みはなくなりました。
腹斜筋は、パーカーのポケットに手を入れるイメージでお腹を触ってみたときに、手が触れる辺りを斜めにはしっている筋肉です。
実際に、固定トレーナーの上でペダリングしながら腹斜筋を触ってみましょう。ペダリングをしている時に、腹斜筋が伸び縮みして上下に動いているか、背中側を触って腰が左右に動いているかを確認します。触ってみて動いてないようだったら手で動かしてあげてください。そうして体全体を使うイメージを覚えさせていきます。実際のフォームでペダリングしながら片手づつ確認した方が、より腹斜筋の動きがイメージしやすいかもしれません。
このようなペダリングの確認にも固定トレーナーはおすすめです。安全に自分の体の動きを意識して、効率よくトレーニングをすることができます。腹斜筋を意識したペダリングができるようになると、腰の痛みを防ぐこともできると思います。
腹斜筋を動かすことができなかったり、意識するのが難しい場合は、柔軟性に問題があるかもしれません。体が硬いと上手く動いてくれないので、走行前にはストレッチをしっかり行いましょう。また、ヨガもおすすめです。
水分は必ず摂取しましょう。私も当初は1時間くらいのレースなら水分補給は不要だと思っていましたが、補給の有無でパフォーマンスが全然違ってくるので、今では喉が渇いていなくても水分をこまめに摂るようにしています。1時間から1時間半の走行だったら必ずボトル一本分を飲み切ります。気温が低く雨が降っているときでも、ボトル半分くらいは飲むようにしています。また、ジェル等を溶かしてカロリーやミネラルを摂取することもあります。
普段は片道約8Kmの自転車通勤と、週末のライドがメインです。レースに向けて、平日の業務後に1時間ほどローラー台でトレーニングすることもあります。平日は毎日トレーニングしているわけでなく、身体と相談して休養をいれながらトレーニングしています。週末は、レースに合わせて山に行ったり、ロングライドしたりしています。また、新しいトレーニング習慣として、ヨガを取り入れました。
自転車をはじめたきっかけが、好きなものを好きなだけ食べたいからだったので、基本的にそこまでストイックに管理はしてないです。ただ、揚げ物やジャンクフードを食べることは控えています。
トレーニングした後に、プロテインを飲んでいます。私の飲んでいるプロテインは、タンパク質以外にもビタミンなども摂ることができます。
また、次の日のパフォーマンスが変わってくるので、ストレッチはしっかり行うようにしています。
レース後には、レッスンご参加の方から「目標にしていた90分切りのブロンズを無事獲得できました」とのメッセージをいただき、私自身もとても嬉しかったです。あなたもぜひ、このガイドを参考にヒルクライムにチャレンジしてみてください!
自転車通勤の為にロードバイクを購入したことがきっかけとなり、競技を開始。現在はフルタイムで働きながらヒルクライムを中心に選手活動を行う。2018年JCBF東日本ロードクラシックDAY1優勝。第15回Mt.富士ヒルクライム女子主催者選抜クラス優勝。現在は、レース以外でも東海エリアを中心に自転車文化の普及・発展にも努めている。